学校保健フォーラム1999-7夏休み中の健康チェック」

「脳細胞と農耕」

今西祐行(児童文学作家)

 何かの本で読んだことがある。人問の頭には140億個の脳細胞があるのだそうだ。学校や塾でいわゆる勉強をしているときには,さぞすべての脳細胞がはたらいているのだろうと考えられるのだが,実際には数パーセントの細胞しかはたらいていないのだそうだ。では残りの脳細胞はいつはたらくのか。それは農作業をしているときなのだそうだ。
 人類が農耕をはじめたのはおよそ一万年前のことだという。それまでは野山をかけまわって食べ物を採集し他の動物たちとたいしてかわった暮らしをしていなかったにちがいない。
 ところがふとしたこと それはおそらく,採集してきた木の実や単の種が芽生えることに気がついて,畑を作ることを発明したのだろう。畑の発明は人類最大の発明であると考えられる。農耕するようになって人間は定住をはじめ,やがて集団生活をはじめるようになる。ことばをおぼえる。文字もおぼえ,歌もおぼえる。より自分たちの食べ物をより多く作るために工夫する。天文,気象,数学,地質学,すべての学問,芸術,つまり文明文化のすべては農耕から
生まれてきた。人間は自分の食べる物を作りながら文明文イヒを持つ今の人間自身を―万年かかって作り育ててきたということになる。
脳細胞こそ農耕によって作られてきたものだ。

 自分の脳細胞の90光がはたらいていないと考えるだけでゾッとしないだろうか。水でも空気でも,ながくよどんでいるとくさる。脳は生きているかぎりくさることはないだろうが,ろくなことを考えないにちがいない。イジメる,キレるなどというのも,脳細胞をはたらかせていないときに起こるのではないだろうか。
突然農作業をせよといってもすぐできることではない。まずこの夏は,農業について考え関心を持つだけでもよいだろう。そのとき,もう眠っていた細胞ははたらきだす。

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